『聖駿学園物語』 番外編
〜boy meets girl〜 


「ひめさまぁ〜、にぃさまぁ〜」 
 姫の部屋で今日の復習と宿題、明日の予習をしていた姫乃と十一のところに、美音子が息を切らしてやってきた。 
「美音子。姫様とお兄ちゃんがお勉強している時は邪魔しちゃダメって約束しただろ?」 
「でもね、でもね!ちょっとだけでいいの。ねこのおはなしきいてほしいの!」 
 一生懸命お願いしてくる美音子に、十一はしょうがないなぁといった感じで姫の方を振り返る。 
 十一の困ったような視線を受けて、姫はため息をついた。 
「わかった。だけど本当にちょっとだけよ。いい、ねこ」 
「はーい」 
 美音子は姫の言葉に満面の笑みといい子の返事を返した。 
「それで?話って何?」 
 勉強を一時中断して場所を移し、十一に紅茶を用意させた後、3人は話し始めた。 
「えっとね。ねこ、ようちえんにいきたいの。それをおとうさまとおかあさまにいったら、おじいさまとおばあさまと、にぃさまとひめさまがいいよっていってくれたらいってもいいっていったの。ねこもようちえんにいってもいい?」 
 美音子の話を聞いた姫と十一は滅多に崩さないポーカーフェイスをかなり引きつらせた。 
 とりあえず、姫と十一は視線を合わせ、心の中で会話をし、美音子を丸め込むことに取りかかった。 
「じゃあ、美音子。姫様とお兄ちゃんはちょっとお話し合いしてから決めるから、先にお祖父様とお祖母様に聞いてきな?」 
「はーい」 
 またもや満面の笑みといい子の返事を返した美音子は姫乃と十一にぺこり、とお辞儀をして姫乃の部屋をあとにした。 
 美音子の足音が遠ざかるまで笑顔でドアを見ていた2人は、美音子の足音が聞こえなくなった瞬間、バッと振り向いて顔を合わせた。 
「ど、おするんですか?!お祖父様とお祖母様は美音子に弱いので期待はできませんよ!」 
「かといって私達が反対しても、私達じゃシゲ(祖父)とタエ(祖母)に口では勝てないわよ!」 
「でも、だからといってあの美音子を幼稚園に行かせたら大変なことになるのは目に見えていますよ!」 
「八方ふさがり…、ね」 
 うーん、と腕を組んでお互いに何かいい手がないか考えるが無情にも時間だけが過ぎていく。 
「姫様、やはりここは美音子は聖学に入れた方がいいと思います」 
「そうね。目の届かないところにいられるよりも、目の届く範囲にいた方がいいわね。何より、ねこはそろそろ鍛え始めないと将来うちのメイド頭として使えなくなると思うのよ」 
「確かにそうですね」 
 2人のいう通り、美音子は犬飼家の人間としての能力を何一つとして持たないで生まれてきてしまった可能性が高いのだ。 
 ただ1つ、使える能力は『癒し系』としての能力のみである。 
 何をやらしても『ドジっ子』の能力しか出てこなく、失敗しては皆の癒し系になっている美音子であった。 
「腹をくくるわよ、十一」 
「はい、姫様」 
 明日からの予想のできぬ日々に、二人の心中はかなり複雑だった。 

「行くわよ、十一、ねこ!」 
「はいっ!」 
「は〜い!」 
 聖学幼等部、校門前でこれから戦いに行くかのように気合いの入った2人と、これから未知なる世界へ行くかのようにわくわくしている顔をした子、1人が立っていた。 
 その3人はもちろん、姫と十一と美音子である。 
 もちろん校門前なんていうとっても目立つところでそんなことをしていれば目立つことこの上ないわけなのだが、姫達が目立っていることはいつものことなので誰も気に留めていなかった。 
「あれ?十一やん」 
 が、そんな彼女たちに声をかける人が1人。 
「あ、直也さん。おはようございます」 
「おう、おはよー」 
 十一が振り向いた先には聖学幼等部年長竹組の西川直也がいた。 
 この2人、実はマブダチ(死語)なのである。 
 聖学幼等部一の情報通である直やんと、姫様のために色々な情報を必要とし、また様々な情報を持っている十一は、持ちつ持たれつ、利害の一致で仲良くなってしまったのだ。 
「にぃさま〜、このひとだぁれ?」 
「美音子。このお兄さんはね、お兄ちゃんのお友達の西川直也さんだよ。自己紹介しなさい」 
「はぁ〜い。はじめまして、いぬかいみねこです。ねこってよんでください!」 
 美音子が、いつも通りの癒しの笑顔で自己紹介をするが、直やんからの反応はない。 
『???』 
 不思議に思った姫乃と十一が直やんに近づいてみると、直やんは呆けた顔のまま固まっていた。 
「か」 
『か?』 
「っ、かわいい…!」 
 かと思ったら今度は拳をフルフルと震わせ、言葉を発した。 
『へ?』 
 直やんのその台詞に姫乃と十一は思わず変な声を上げる。 
「ねこちゃん、って言うんかぁ〜。あ、わいのことは好きに呼んでくれてかまわへんで」 
 直やんは、美音子の目線に合わせるためにしゃがみ込み、さりげなく美音子の頭を撫でた。 
「???わい?かまへんで????わいん〜?かまぼこ〜?」 
「ねこちゃんは関西弁は始めて聞くんか〜?『わい』っていうのは『俺』って意味で、『かまへんで』っていうのは『かまわない』って意味や。わかったか?」 
「ん〜、なんとなく〜?」 
「これから慣れていけばええねん」 
 直やんと美音子は、校門前で微妙にピンクっぽい空間を作り出しており、登校してくる生徒達の注目の的となっていた。 
「幸薄の直也さんにもとうとう春がやってきましたかね?」 
「直也に春がやってきたとしても、ねこにその想いが届くかどうかが一番の問題だと思うけど」 
「それもそうですね」 
 この後も、暫くの間は直やんと美音子の微妙にピンクっぽい空間が展開されていた。 


 この二人の恋愛は、神だけでなく制作者三人も知らない…。 


To be continued…?

 

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