聖駿学園物語・番外編
〜初夢?正夢?ありえねー!〜

 一富士・ニ 鷹・三なすび。
 元日の夜に見る夢、いわゆる「初夢」というやつで出てくるとめでたいとか 言われているアレ。
 富士はなんとなく分かるし、鷹もカッコいいからまぁ良しとして。
 なんでなすび?
 おめでたいものなら、それこそ鯛とか他にも色々あるのに。
 そう思って兄さんに聞いたら、「ゴロ合わせがいいからだ!」と言ってい た。多分違うと思う。…って突っ込んだのは義姉さんで、でも義姉さんにもなすびの 謎は分からなかった。
 …まぁいいか。人生四年生きてきたけど、そんな夢にお目にかかったことは ないし。なすびの謎が解けたところで、365日の中のたった一夜、しかも決まった 日にその夢が見れる確率は………………今度、大学院の乾さんに聞こう。
 そんなわけで、健康児な私こと土屋実沙は、その日も早々に布団に潜った。 そして…見てしまったのだ。いや、なすびじゃないが。
 それでも、あの夢のインパクトはすごすぎて。
 折りしもそれは、元日の夜の夢だった――――。



「――――… さ、実沙。起きてよ、実沙」
「…ん…?」
 聞きなれた声に名前を呼ばれ、私はぼんやりと目を覚ました。光がいやにま ぶしくて、一度ぐっと目をつむる。…なんか、さわやかな若草の香りがする気がする んですけど?
「なに…もう朝〜?」
「…?実沙、寝ぼけてるの?もうおやつの時間だよ」
「ふぇ?」
 え、だって私、夜の9時に寝たのが最後だし。そんなに私、寝過ごした?
 え、てゆーか、この声…。
「昼寝するって言ってたの、実沙じゃん。…全く、寝てるときの実沙の顔可愛 すぎ……」
「あっ!?ああああああああ あ亮く〜〜〜〜〜〜〜〜んっっ!!?」
 がばっと私は身を起こした。巻き上がる草の匂い。何故かその時私は外の、 しかも野原の上にいて、しかも私の隣にいるのは。
「…どうしたの実沙。急に大きな声…」
「でぇーーーーっっ!!?えっ、えっ、だってだって何なんで亮くんいるの何そ の格好!?」
 亮くんは
馬 になっていた――――いやいや違う。綺麗な馬(ポニー) の隣に亮くんが立っていた。
 革鎧つけて、青いマント羽織って、ブーツはいて。…なんか、カッコいい。
 亮くんは、私の言葉に少し傷ついた顔をした。
「なんでいるのって言われても…」
「えっ?あっ!ちがっ、違うの!!ちょっとびっくりしちゃってだってここどこ !?」
 風がそよぐ草原。青い空。白い雲。明るい太陽。怪訝な表情の亮くん。
「どこって、魔王の城の前の草原だけど」
 
――――――――――… は?

  
ま お う ?

 その瞬間。私は思い出したのだ!
 この世を支配している魔王(璃奈様)とその手下(イチ様)のこと。
 数ヶ月前、魔王を倒そうと勇んで出かけた兄さんがとんでもない姿になって 帰ってきたこと。
 それは魔王の呪いであること。
 呪いを解くには魔王を倒さなければならず、しかしそれができるのは我が家 に伝わる
伝 説の空手・超絶奥義しかないということ。
 そういうわけで、私が魔王を倒しに行くことになり、魔法使いの義姉さんや 勇者・亮くん、そして兄さんと共に旅に出てきたこと。
 そうだ、魔王の城はもう目前なのだ!!
「あっ、亮くんごめん!なんか私、やっぱり寝ぼけてたみたい。変なこと言っ ちゃって…」
「いや、いいよ。…そういう実沙も好きだから」
 恥ずかしくて俯きながら謝ると、すぐ近くで亮くんの声がした。
「!!?」
 目の前に、亮くんの顔があった。と思ったら、どんどんどんどん距離が短く なって――――。
「ちょっと待ったぁ〜〜〜 〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
 突然、妙にかん高い声と共に私の体が後ろに引っ張られた。
「わぁっ!!?」
 勢い余って、私はどさりと草の上に転がった。仰向けになった私の上を、小 さな何かがヒュンッと飛んで亮くんの前で止まる。
「やいコラてめぇ!俺がちょーっと眼を離したすきに実沙にちょっかい出しや がって!!」
「まだ出してないよ」
 ものすっごく不機嫌そうに亮くん。不機嫌そうだが、その割に口の端がわず かにひくついている。
 亮くんの前でカンカンに怒っているのは、一匹の妖精だった。
 手のひらサイズで、トンボみたいな4枚の羽が背中に生えている。色は ピンク。ひらひらのふわふわな服もピンク色。身体中から振りまく妖精の粉も当然
ピンク
 とても可愛い妖精だ。そして何より。
「わっ、笑ったな!?今笑ったな!!?」
「笑ってません、義兄さん」
「土屋先輩と呼べーーーー!!!」
 ………………妖精は、兄さんだった。



「…出入り口 は正門と勝手口の2つで …」
 義姉さんが創った防御魔方陣の中に、私たちはいた。
 私と亮くんが草原で待機している間、兄さんと義姉さんはこっそり魔王の城 に忍び込み中を偵察してきてくれたのだ。
 ショートローブにスカート姿の義姉さんが、魔法の杖で空中に城の見取り図 を描く。
 何故に、魔王たる者が住む城に勝手口があるのか。私はちょっぴり疑問に思ったが、すぐに思考を切り替えた。今は、魔王成敗に全てをかけるのみ。
「正門は見張りがたくさんいるけど、勝手口の方は黒子とかザコばっかりだ よ」
「じゃあ、そこから入れば…」
「うん。…亮くん、前衛お願いできる?私がフォローするから」
「分かりました。…実沙、大丈夫。必ず俺が守るから」
「う、うん!」
「待った待った待ったぁ!!三流勇者だけでは心もとないから俺も」
「つっちーは私のカバンの中で待機」(←すかさず)
「……はい」
「…で、ここを抜けると上りの階段が2つあるから、右の方を登って。ひたす ら階段を登ると、最上階が魔王の部屋だよ。手下は私と亮くんが食い止めるから、実 沙ちゃんは真っ直ぐ魔王のところへ…」
『――――その必要はない…』
 不意に、どこからともなく女の声が響いた。
 ザァァッと強い風が私たちに直撃する。
「そんな――――っ!?」
 義姉さんの防御魔方陣は、風を通さないはずだ。魔方陣は破られたのだ!
 姿を見せず、呪文も使わずにこんなことが出来るのは…ただ一人。
「魔王…………!!」
 さっきまで眩しかった空に、突如として暗雲が立ち込める。激しい雷の音と 風に、私はよろけた。
「くっ…」
「実沙!!」
 亮くんが私の腕を掴んで引き戻す。兄さんが何かを叫んだが、ひときわ強く 吹いた風に乗って軽やかにどこかへ飛んでいってしまった。
「兄さん!?」
「つっちー!!」
 その時だった。
 私たちの目の前で、空間がぐにゃりと歪んだ。そして。
 
――――――――にゅん。(←歪んだ空間 から何かが出てくる音)
「エヴィリバディご機嫌いかがー!?俺の愛しのマイスウィートラヴァーを手に かけようとしているのは君たちだな!?ふっ、だがしかし、この俺のハニーに対する愛 の壁を君たちは乗り越えることができるかグフェッ !!
「うるさいイチ、さっさとそこをどけ」
 颯爽と空間を抜けて出てきた手下(の愛の壁)を踏み越え、一人の女性が現 れた。
 黒く長いローブ。風になびく緑の黒髪。手には大鎌。
 才色兼備と謳われると同時に、恐怖と共にこの世に君臨する『女帝』。
「魔王!!」
「この前もやたら体力のあり余る男が来たと思ったら…今度はその妹か」
 髪を掻き揚げ、魔王が私を見る。
「マイハニー!痛いじゃないか!!」
 踏まれて潰れたカエルのようになっていた手下が早々と復活した。
「あぁでも俺はハニーのそんな不器用な愛の表現 にしっかりと気づいているからねっ!」
 いや、あれはどう見ても本気な気がするけど…。
「黙れイチ。お前はそこの魔法使いと勇者の相手をしろ。こっちの空手女は私 がやる」
「でもマイハニー!彼女は君を倒す必殺技を持っているぞ!?」
「だったらなおさら面白い」
「ハニー!!だめだっ!そんな危険な目に君を遭わせるわけには
グハァッ!?
 格好よく魔王に駆け寄ろうとした手下は、しかし魔王の容赦ない足蹴りに よってぶっ飛び、亮くんと義姉さんを巻き込みながら転がっていった。
「義姉さん!?亮くーーーーん!!?」
「お前の相手は私だ、土屋実沙」
「!?」
 耳元で魔王がささやいた。反射的に私はその場を飛びのく。気配を悟られず に私に近づくとは…!
 にらみ合う私と魔王。互いにじりじりと距離をとる。
「魔王…兄さんの呪いを解くために、私はあなたを倒す!」
「ふん、やれるものならやってみるがいい。喰らえ、
ーッ!!
 魔王が大鎌を振りかざす。すると…。
Pi Pi Pi Pi  Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi !!!
 大鎌が光り出し、ひどく耳障りな高い音を発し た!
 あまりの不快感に私は眩暈を感じ、そして――――…。



Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi・ ・・Pi.
「実沙ぁ、起きろよもう。目覚まし鳴ってんだ ろ」
「……………………ま」
「ま?」
「……ま、まおぉぉ〜〜〜〜…」
「おーい、実沙ー」
「――――…んん?」
 ゆさゆさと身体を揺さぶられ、私は目を覚ました。――――ガバッ !!
「……にっ、兄さん!?戻ったの!?」
「え、な、戻った…?」
「…え、え、だって……」
 私はキョロキョロと辺りを見回した。そこは…見慣れた私の部屋だった。
「ゆ、夢?」
「お雑煮出来てるぞ。冷めないうちに早く食べよう」
 じゃ、お先〜と言いながらパジャマ姿の兄さん(通常サイズ)は部屋を出て 行った。
「……………………………………………………………………………………」
 
私は、呆然とその背中を見送った。
 日めくりカレンダーの日付は、1月2日。
(…あんなのが初夢…?)
 ――――今年も、大変な一年になりそうだ。

――完…と見せかけて↓――

 

 

 

〜おまけの初夢〜

「太郎、明け ましておめでとう」
「おめでとう、母さん」
 ここは山田太郎(委員長)の実家である。
「太郎…実はね、太郎を驚かそうと思ってずっと黙っていたことがあるのよ」
「えっ!?何?」
「実はね、お母さん再婚しようと思うの」
「再婚!!?」
「えぇ。化学者の方だし、とってもいい人だから 太郎も気に入ると思うの」
「えっ、あっ…」
「こっちよ。
貞坡琉さん
「やぁ、山田太郎くん。いや、
乾太郎くんと言うべきかな?」
「……」



「うわあぁぁーーーーっ!!!」
 委員長は実験台の上から飛び起きて、身体についていたコードを引き千切 る。
「はっ…はぁ…夢か……」
「どうしたんだ!?心拍数、脈拍、血糖値等が急激に上昇したぞ!?」
 駆け寄ってくるのは…。
「ぎゃあぁぁーーーーっっ !!!」
「いったいどうしたんだ!?奇行に走るとは、これは検 査しなければ!!」
「くるなぁぁーーーーっっ !!!」
 日の出が登るころ、委員長たちの鬼ごっこは始まったのでした。

――真・完――

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送