「実沙、大丈夫?怪我してないか?全く、お義兄さんが負けたって放送入った時、マジでびびったよ。あのとき松組が負けていなかったら手出しできなくなったお義兄さんの代わりに俺が実沙を…」
「俺の妹を何だって!?越前君はまだ体力が有り余っているようだな。さっさと梅組を倒しに行ってもらいたいね」
 実沙に言い寄る亮君の妨害をせんと、すかさず割り込んでくるつっちー。
 すかさず、2人の言い合いが始まるかと思ったがそこにさらに割り込むヤツがいた。
「その必要はない」
 ハッと全員が振り向くと屋上に通じる入り口に誰かが立っていた…。
 バックライトがまぶしく光っている。
「全くだね。俺たちの方から出向かなければならないなんて、この罪は重いよ」
「いいんだ、イチ。遅かれ速かれ決着はつけなければならないんだからな。土屋実沙、午前中の借りを返しに来たぞ」
『(柳)璃奈(様)…!!…と、イチ(様)!!』
 黒子が持っていたバックライトの光が弱まり、テニスウェアを着た二人の姿が現れる。
「何でテニスウェアで出てきてんの?ここでテニスでもする気」
「「もちろんだ!」」
 璃奈様が指を鳴らすと黒子達がわらわらと亮君と実沙ちゃんを取り囲む。
「土屋実沙、越前亮。お前達2人とダブルスで勝負だ。勝った方がこの缶蹴り大会の勝者だ」
「テニスで缶蹴り大会の勝者って…矛盾しすぎやで…」
「何か言ったか?西川直也」
「ただの独り言ですから、気にせんといてください」
 女帝・璃奈様は最キョウ(当て字はお好きにどうぞ)だった。
「さて、準備は終わったか?」
 いつの間に事が済んだのか、黒子達から解放された実沙ちゃんと亮君はテニスウェアに着替えていた。
「こんな格好してやるものなの?テニスって」
 膝上10cmはあろうかと思われるスコートを始めてはき、足がスースーする感じに実沙ちゃんは顔をしかめた。
「似合ってるよ、実沙」
「私も亮君みたいなハーフパンツがよかった」
「(背後に黒子から奪い取ったハーパンを隠しつつ)それしかなかったんだってさ」
「そっかぁ…普段こんなに短いのはかないからなぁ」
「いいじゃん、似合ってるんだから。それに、下にスパッツはいてるんだから大丈夫でしょ」
「だってなんか普通のパンツっぽいよ」
「そんなことないよ。これが正式な格好なんだから」(注:亮君のウソですから信用しちゃ駄目ですよ)
 服装のことでお互いに譲ろうとしない2人。
 そろそろ璃奈様あたりの堪忍袋の緒が切れそうだ。
「服装のことはそれくらいにして、そろそろ始めるぞ」
 黒子達が白線を引いているのを横目に、璃奈様とイチ様が位置についた。

『みんな大好き(?)缶蹴り大会』 第四部 「テニスと缶と勝負の行方」

「始めるのはいいけど、こっちはまだアップしてないんだから少し時間ちょうだいよ」
「どうするマイスイートハニー」
「少し位ならいいだろう」
 璃奈様に許可をもらった亮君は早速とばかりに準備運動に入る。
 実沙も見様見真似で亮君に付いていく。
「体も暖まったことだし、まずはサーブの練習でもしてみようか」
 テニス初心者の実沙は、亮君の言葉の意味はよくわからなかったが、とにかく璃奈様とイチ様に勝つために、言われたことを頑張って吸収することにした。
「そこの端に立って。細かいことは試合中に説明してやるから、とりあえず形だけ覚えて。こう、ボールを上に投げて…ラケットで前に押し出す感じ。あっちのコートの線の向こうに入ったらOK。…やってみて」
 やってみるがやはり入らず悪戦苦闘する実沙を亮君は手取り足取り教える。
「大体こんなもんかな。邪、次はボレーとストロークかな」
 名前はよくわからなかったが、実践に入ればとりあえず慣れることを祈ろう…。
 そんな感じで、ちゃっちゃと時間は過ぎていき…。
 30分後。
「こんなもんか…。そろそろ行くよ、実沙!」
「うん、がんばるよ!」
「もういいのか?いいのなら始めるぞ。サーブはくれてやるから早くしろ」
 待ちくたびれた顔で璃奈様はボールを軽く打ち、実沙達に渡した。
「お言葉に甘えて、俺たちから始めさせてもらうよ」
 亮君はいつもの勝ち気な笑みから真剣な顔になり、右手でラケットを持って、左手でボールを弾ませる。
「(…あれ?亮君って右利きだったっけ…?)」
 私の疑問は亮君が鮮やかにサーブを決めた瞬間、頭の片隅に追いやられた。
 亮君の打ったサーブは、相手のコートに入ってバウンドしたかと思ったら、イチ様の顔面に向かって跳ね上がった。
「イチ、危ない!!?」
 イチ様は、反射的にラケットを顔の前に出し、ボールを避けようとする。
 努力の甲斐あってか、ボールはフレームに当たり横に転がっていった。
「15-0!」
 審判役のなおやんが声を張り上げる。
「イチ!大丈夫か?!……くそ、許すまじ!越前亮!!」
 璃奈様、美脚をザッと広げ、本気モード全開!!
「私達に勝つのはまだ早いな」
「俺のツイストサーブを返せないクセに。まだまだだね」
 2人してどこかで聞いたことのあるような台詞を口にし、ハブとマングースの如くにらみ合う。
 しばらくにらみ合った後、再びサーブの構えをし、パァン!とボールを璃奈様に打ち出す亮君。
 璃奈様は蝶が舞うかの如く軽やかに打ち返した。
 が、そこは流石プロテニスプレイヤーの息子だけあり、聖学幼等部の2トップ相手に怯まずにどんどんと攻めていく。
「実沙、大丈夫か?!」
「だっだっだっ、大丈夫ーーーーー!!」
 結構いっぱいいっぱいなのか、つっちーの声にどもりながら答える。
「実沙、長年培った(女の)野生の勘で動くんだ!!」
 次の瞬間、その場にいた全員が目を見張った。
「はぁぁーーーーーーーーーー!!!」
 つっちーの台詞で力の入らなかったイチ様はロブを上げてしまい、実沙はそれを思いっきり打ち下ろした。
「さ、30-0!!」
 これにはなおやんも驚き、校内放送もされているので校舎内からもざわめきが起こる。
「おーっと!ここで我らのアイドル、実沙が渾身のダンクスマッシュを決めたーーーーー!!」
「『我らの』じゃなくて『つっちーの心の』でしょ。どうも、実況はつっちー、解説は、つっちーの心の癒し系、私事てるてる出お送りします」
「そこーーーっ!!『放送内恋愛』禁止やでーーーーーーっっ!!」
 そんな漫才を繰り広げている3人を、テニス組4人はスッパリ無視してゲームを続ける。
 亮君が打ったボールを、イチ様が返そうとして無駄にアクロバットを披露する。
「璃奈の心をねらい打ちvイチ・様・ビィームッ!!」
 無駄で訳の分からない接頭語に、実沙と亮君は思わず一瞬動きを止めてしまった。
「30-15!しっかりしぃや、実沙ちゃん、亮君!」
「ちっ、あんなのにやられるなんて…」
「あっ亮君!あんな変な台詞に惑わされちゃ駄目だよ!心に余裕を持って逆にツッコむ位の勢いで行けば万事OKだよ!」
「はーっはっは!!どうだいマイハニー!僕の愛の力を見ただろう?!」
「馬鹿を言うな。狙っているのは私ではないだろう」
 なんて言うか、それぞれの会話が成り立っているようで成り立っていないところが笑いを誘ってしまう。
「…………………………………こういう奴らのこと、何て言うか知ってる、つっちー?」
「共に愛し合う2人、だが時は残酷、やがて2人の愛はすれ違い、そして……!!…みたいな?」
「はぁーー、バカップルが3組かいな。審判やめたいわ…ってか、わいも彼女欲しいーーーーーっ!」
 はっきり言って、それぞれがそれぞれの世界にぶっ飛んでいた。
「…って直やん!試合見て!」
 直やんが正気に戻り、試合に目を向けるとものすごい打ち合いになっていた。
「(彼ら…並の精神力じゃない。この試合、この初戦が試合の勝敗を左右する。…私が、断ち切る!!)」
 亮君が打った球を、女帝はキッと睨みつける。
 そして----------!!
「あれはマイハニーのトリプルカウンターのうちの1つ『つ○め返し』!!」
 璃奈様の打ったボールは弾まずに、私達2人の足下を、地面を滑るように抜けていった。
「―――!?…あ、30-30!」
「おおおおっ!!ワンダフルだよ、ビューティフルだよマイハニーv食べちゃいたい位にキュートだよvv」
「イチ、うるさい」
「あ、亮君…今のって、何……?」
 私の問いかけに亮君は少し考え込み、口を開いた。
「…多分、俺の打ったトップスピンをスライスで返して2乗の回転をかけたんだと思う。スライス回転の打球はあまり弾むものじゃないんだけど、2乗の回転をかけたおかげで弾まずに、地面を滑っていったんだ」
「へ、へぇーーーーそうーーーー………(?????????)」
「ごたくはいい、早く始めろ」
 璃奈様の言葉に亮君は璃奈様をにらみ返してサーブを打つ。
 素早く帰ってきたボールを追い、実沙も賢明に頑張る。
 頑張って頑張って頑張った結果が現在2-1だったりする。
「亮君、この調子で頑張っていこう!」
「っていうかマジにならないとはっきり言ってやばい」
「さーて、どんどん行くよマイハニー。俺の華麗なサーブを見ておくれ!『ハニー命』!!」
「ばっかじゃないの。もうその手には乗らないよ」
 そういって球を打ち返そうとした亮君は、ラケットに当てた瞬間、その球の重さに思わず目を見張った。
「…くっ」
「チャーンス!行くぞマイハニー!!『2人の愛のロンド』!」
 球の重さに耐えかねた亮君が高く打ち上げた球をめがけ、イチ様のラケットが風を切ってスマッシュを打つ!
「きゃっ?!!」
 至近距離でのスマッシュに実沙は反応できずに、ボールはラケットを握っている右手に当たった。
『実沙(ちゃん)っ!!??』
 その衝撃で倒れ込むがボールはまだ生きており、それを女帝が決める。
「「私(俺)達の美技に酔いな(さい)!」」
「15-0!ってか実沙ちゃん大丈夫か?!!」
「大丈夫、大丈夫!試合続けてOKだよ!!」
「審判、タイム」
 実沙の言葉を遮るように亮君がいい、実沙の右手をそっと取る。
「あっあ…あ、亮君!本当に大丈夫だから///…そのっ…」
「少し腫れてるね。とりあえず冷えピタだけ貼っておくか」
 どこから取り出したのやら、亮君はテキパキと実沙の手を治療し、冷えピタを貼る前にとってもとってもさりげなく、怪我の部分に顔を近づけ何やらした、ように見えた。
「怪我が早く治るようにおまじない」
「ふっ!?普通は『痛いの痛いのとんでいけ』じゃないの??!」
「越前ーー!!!てめぇ、許さねー!俺の妹に何さらしとんじゃこらぁ!!!今すぐ降りろ!コートを降りろぉっっっ!!!」
「つっちー!落ち着いて、落ち着いてーーーーーっ!!直やんっ、早く試合始めちゃって!」
 亮君の行動にブチ切れたつっちー。
 実況席から乗り出して亮君に喧嘩を売ろうとする。
 てるてるはそんなつっちーを必死になって押さえていた。
 しかし、外野の喧噪も何のその。
 亮君はいつものマイペースさで周りを完全に無視していた。
「そんなのただの気休めだろ。さ、行こうか」
「えっ、あっ、うん///」
「…っていうかさ、アンタ達。俺の実沙を傷つけた罪は重いよ。その代償はアンタ達のプライドと体で払ってもらうから、覚悟しておいてよ」
「俺のマイハニーに指一本でも触れたら、君の明日はないと思いなよ?」
「………うぬぼれたバカ男を相手にするのは互いに苦労するな」
「…亮君は自惚れてなんかいないと思いますけど」
 『バカ男』に反応したのか、心のマイ王子様をバカにされて実沙の顔つきが変わる。
「はーい、はいはい!おしゃべりはここまでにして試合始めんでー!」
「亮君!この試合、何としてでも勝とうね!絶対あの2人のプライドをずたずたに引き裂いてやるんだから!」
 ただならぬオーラが実沙の周りから漂い始める。
「ふっ。どんなに頑張ったって無駄なあがきなのさ。さぁ行くぞ!『ハニー命』!」
「そっちが『ハニー命』で来るならこっちだって!!『ジャクナイフ』?!」
「やるな?!それなら『璃奈と共に星高くム○ンボレー』!!」
 4人の間で様々な技の応酬が繰り広げられる。
「どうも、やっとまともな実況ができますつっちーです!ものすごい技の出し合いになってますがしかし、技の名前を言う必要はあるんでしょうか?どうでしょう、てるてる」
「そうですねー。やはり本人の気分次第ですね。イチみたいな人だと技名を言って自分を乗せることによってさらに実力を増すことも可能ですし。テニスは精神面が試合を左右するスポーツですからね。そういうことも大事だと思います」
「なるほど。ということはこの試合、結果が見えなくなりましたね!!さて、今のところイチ・璃奈組が有利です!頑張れ実沙!!」
 屋上で白熱した試合が行われているが、夕暮れの空模様がなんだか怪しくなってきた。
「なんだか雲行きが怪しくなってきましたねー。てるてる」
「そうですね、ちょっと暗くなってきました…これはもしかして…」
 てるてるが言い終わらないうちにぽつりぽつりと雨が降り始めた。
 と同時に、つっちーはてるてるに、イチ様は璃奈様に、亮君は実沙に、どこからともなく取り出した傘を差した。(注:試合そっちのけ)
「ありゃー、これは試合延期にした方がええとちゃいまっかー」
「まぁ、夕立でしょうから雨がやむまで一次休戦にしましょうよ」
「夕立の確率は75%。ちゃんと大型ビニールシートは用意してある」
 璃奈様の言葉に、背後に黒子がずらりと並び、ビニールシートを頭上にかざす。
 黒子がせっせとシートを敷いている間3組はラブラブ(?)な一時を過ごした。(直やんは除く)
「…独り身って、やっぱさみしいな。…本気で彼女つくろっかなぁ」
「あらあら、直やんってば濡れ鼠みたいにしょぼくれてる。どうしたんだろう?」
「ええって、ええって、わいなんかにかまわんでもええって…」
 てるてるの言葉は慰めるどころか、余計に傷を深くするだけだった。
「あぁ愛しのマイスイートラバー、寒くはないかい?何だったら暖めて…」
「却下」
「てるてる、寒くないか?寒いのなら言えよ。俺が暖めてやるから」
「心はもう温まってるよ、つっちー」
「亮君…近すぎない?……それに手も離してくれると…///」
「寒いから人肌で暖めてよ」
「え、ハタ?…って、魚?ヒトハタなんてあったっけ?」
「ルールルーーーーララーーーールルルーーーーーー♪……ハァ」
 直やんは3組のLOVE×2っぷりに当てられて、壊れた。
 30分後、やっと雨は上がった。
「そんじゃ、ほな早う試合やってぇな」
「2-1の15-15でよかったよね」
「ふっ、よく追いついたな。だがここまでだよ君たち!『はにーLOVE』!!」
「実沙のためにも絶対負けるわけにはいかないっ!」
 飛んでくるボールめがけ、亮君がラケットを思いっきり振った。
『なっ?!』
「あっ、あれはライジングショット!?」
「ライジングショット…、それはボールがコートを跳ねた瞬間に繰り出されるショット!!」
「ふむ、とにかくものすごいショットだということですね。…てるてるは頭がいいなぁ」
「さらに言うと、ライジングショットは普通に返す打球よりもタイミングが早いから相手にかまえる隙を与えない。つまり奇襲をかけることができるのさ!!」
 拳を握りアツく解説をするてるてる。
 微妙に口調も変わってます。
「ほんまにその通りやで、てるてる!30-15や!!」
 機嫌も直った直やんがうれしそうにコールするが、イチ様は不敵な笑みを浮かべていた。
「しょうがねぇな。そっちがそれで来るなら俺は…リ○ムに乗るぜ!!」
「リ、リズ○…?てるてる、彼は一体何を?」
「とりあえず、気分ですね」
 イチ様は外野の言っていることなど気にせずにサーブに入る。
「行くぜっ、『イン・マイハートの璃奈へ捧げる、熱烈アタックサーブ』!!」
「だから、私にではなくあいつらに捧げているだろうがっ!」
 しかし、イチ様の打ったボールは綺麗に私の横を抜き去った。
「っ…!?びっくりした…」
「見たかい?見たかい璃奈!?素晴らしいだろう?ビューティホーだろう?さぁ、どんどん乗って行くぜ!!」
「亮君。今のサーブ、前までのより速くなってた気がするんだけど…」
 実沙が亮君の方を振り返ると、亮君はじっとイチ様の方を睨みつけていた。
「亮君?どうしたの?」
「別に。ただ…初心者相手に本気でくるなんて大人げないなぁと思って」
「っ、亮君!!声が大きい…」
「君もまだまだ子供だな。璃奈への愛のためならば初心者だろうが容赦はしないっ!」
「アンタもさ、こんな奴が婚約者で疲れないの?」
 いきなり話を振られ、璃奈様は一瞬驚いたような顔をした…ように見えたが、すぐにいつもの無表情になり、髪を少し整えながら言った。
「まぁ、確かに煩わしいしやかましいし精神的に子供だが、目の前にいる無味乾燥な男よりはよっぽどマシだろうな」
「それを言うならこっちだって目の前にいる女王様気取りのたいして可愛くもない女よりも俺の実沙の方が数倍もマシだけどね」
「何ぃ?!大体彼女は君のことにまるっとすりっとどこまでも気づいていないじゃないか!!俺の愛しの天使・璃奈を侮辱するとはーーー!!世界中のどこを探したって、こんな美しくてちょっぴり照れ屋さんなところがまたキュートで素晴らしいマイスイートハニーな女性は彼女しかいないっっっ!!!」
 いきなり、彼氏彼女自慢を始める3人。
 それを聞いていた彼女いない歴6年目突入の直やんは体をフルフルと震わせて怒りをあらわにしていた。
「いい加減にせいやボケェェッ!!さっきから聞くいとりゃあテニスもせぇへんでイチャこらしやがって聞いてるこっちの身ぃも考えろや!いてまうどわれぇぇぇっ!」
「何語?」(←ほら亮君帰国子女だから)
「あーだまらっしゃい!!試合始めんかコラァ沈めるでっ!!」
「どこに?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜こんの帰国子女がぁ!!」
 亮君に悪気は全くもってない。
 いくら聖学に通っている生意気なクソガキだろうと子供なのだから好奇心が旺盛なのだ。
「な、直やん落ち着いて!!相手は年下だよ!?」
「そうだぞ直やん、ひがみはみっともないぞ」
「いい加減にしろ!!」
 ………………しぃーーーーーーーーーーん………………
 あたりに実沙の叫び声が響き渡り、屋上が一瞬静まりかえる。
「ごめん実沙」
「み、実沙。俺たちが悪かった」
「…さてと。続けるぞ、イチ」
「オッケー!マイハニー!!」
 相変わらず冷たい璃奈様と、ノリノリのイチ様が、何事もなかったかのように会話をする。
「あー……ほんなら40-15で再開やっ!!」
 直やんの言葉にイチ様がサーブの構えをとる。
「イチ、私達がリードしているからといって油断はするなよ。越前亮は既にプロに匹敵するテニスプレイヤーの腕を持っている」
「ふっふーん。彼がプロなら俺はトッププロだね。俺に任せておけば万事OKさ!さあ、行くぜっ!」
「まだまだだね」
 イチ様のサーブに挑むように、亮君はグッとラケットを握った。
 そのままイチ様のサーブを難なくと打ち返し、ボールは璃奈様の足下へと向かう。
「その言葉、そっくりそのまま返してやる」
 璃奈様が素早く返したボールは、実沙の方へ飛んでいった。
「私は…負けないっ!」
 実沙の打ったボールは相手のコートに入ったと思ったら、弾まずに戻ってきた。
 一瞬で、場の空気が固まった。
「なっ?!今、一体何が…!?そんな時はてるてる!」
「そんなこと言われてもっ!ドロップショットの一種だと思うけど…」
 屋上では混乱の空気が流れ始める。
「…………………亮君、今の何?」
 自分でやったことが信じられないのか、実沙は呆然としながら亮君に説明を求める。
「…今のは、まさか……○式…」
「聞いたことあるでーーーっ!梅組の手塚先生がプロやったころに使っとった、伝家の宝刀やろっ!わい始めて見たで!感激やーーーーっ!!」
 何というか。
 シリアスぶちこわしである。
「えっ?!何それ!?私そんなの知らないよ?!」
 しかし、普通に打っただけなのにそんなすごいことなんてできるモノだろうか。
 甚だ謎であるが、実沙ならやりかねない気がするのでOKである。
「ふっふっふっ。○式か…それでこそ倒し甲斐があるというものだ。イチ!潰すぞ!!」
 そんなこんなでいろいろあって6-6、タイブレークの6-5で年長チームがマッチポイントを迎えていた。
「なかなかやるな、二人とも。俺たちの愛についてこれたことは褒めよう。だがしかし!!君たちは勝てない。なぜなら、この俺のマイハニーに対する想いは天よりも高く海よりも深きものだからだぁーーーーーーっっ!!!」
 イチ様ははたして惚気以外の台詞はしゃべれないのだろうか。
 いつだって璃奈様への愛を叫んでいる気がする。
「…これだから大人気ない奴はいやなんだよ……しかたないね…」
 亮君は今まで右手で持っていたラケットを左手に持ち替えた。
「そろそろ本気出そうか。行くよ、実沙!」
「うんっ!これからが本番だよね!」
 亮君に触発され、実沙は決してうまいとは言えないが渾身の力を込めてサーブを打った。
「ふっ、甘いな」
 璃奈様は軽々とボールを返す。
「悪いけど決めさせてもらうよ」
「おおーっと、越前一体何を----!?」
 後衛にいた亮君はボールに向かって走っていったと思ったら、途中で実沙達の視界から消え去った。
 このときばかりは亮君嫌いのつっちーも目を見張った。
 実沙達の視界から消え去ったと思ったら、亮君はスライディングをしながらボールに向かっていて、ボールが目の前にきたと思ったら亮君はジャンプをしながらボールを打った。
 亮君の打ったボールは場外ホームランになるかと思ったら、いきなり落下し始めて、テニスコートに対してイニシャルのBの文字をつくった。
 もちろん、場外ホームランになるだろうと思っていたイチ様と璃奈様は反応することができずに、実沙・亮君チームの得点となった。
「うおっ?!やったで!!実沙ちゃんらが璃奈様チームに追いついたで!!こりゃあ目がよう離せんわ…6-6!!ところで今のは…ど、ドライブ…えーと…」
「まったく、技の名前も知らないで審判をやっててほしくないね」
「うっさいや!そや、B!ド○イブBや!!今更伏せ字を使わんといてとかいうツッコミはせんといて!!」
「もうバレバレだし。ねぇ、つっちー?」
「そうだぞ直也。技名を最初にいった時に伏せ字を使わなかったお前が悪い」
 ブーイングの嵐(?)に、一体人間って何だろう…、と直やんはちょっぴり悩んだ。
 はてさて、最終局面を迎え、緊張に包まれた屋上の動向を校内の先生・生徒が皆固唾をのんで見守った。
「さぁ、12ポイントのタイブレークですが、現在のポイントは6-6。ここから先は2ポイント連続でとった方の勝ちとなります。この試合を制するのは現在トップに君臨する女帝・帝王コンビなのか?!それとも次代を担う王子と姫(仮)か!」
 夕闇迫る屋上に、イチ様の黒子がぱっとライトを照らす。
 あと少しで勝てる、そう思うと急にプレッシャーが襲ってきたのか実沙の手が勝手に震え出す。
「実沙、大丈夫だよ。俺がついてるから。………俺たち二人の力を信じよう」(←ポイントアップ狙い)
「そっ、そうだよね。うん…足手まといにならないように気をつけるよ!今まで偶然で結構すごい技出せたし…信じればもっとすごいの出るかも!!」(←何かがやっぱりずれている)
 亮君の言葉で手の震えも消え、絶対大丈夫だと言う自信が実沙にみなぎってくる。
だからさ、実沙。そういう意味で言った訳じゃないんだよ
「え?何か言った?」
「別に…実沙、このまま決めるよ」
 亮君の言葉に励まされ、実沙はコートの反対側にいる二人に負ける気はどこにもなくなっていた。
 サーブの位置についた亮君がボールを高く投げ上げる----!!
「はっ!!」
「でたっ!亮君のツイストサーブ!」
「素早く璃奈様が打ち返す!!我らが実沙も負けじと打って、それをイチが打って、う、あ、…は、早すぎて実況できなーーーい!!」
 つっちーがてんてこまいまいになっている間にもすさまじい打ち合いが続く。
 その後もお互いに一歩も譲らずに1ポイントずつとっていく。
「なかなかやるな、越前亮!!」
「そっちこそ、女の割に結構やるじゃん」
「当たり前だろ!!マイハニーが貴様ごときに劣るわけがない!!」
「あ、亮君だって強いんですよ!」
惚気のような会話が続き、亮君のドラ○ブBが決まる。
「35-36、コスモス組リード!亮君、実沙ちゃん、あと1ポイントや、気合い入れるんや!!」
 イチ様が、今まで見たこと無いような表情でサーブのかまえに入る。
「こんなところで俺たちが負けるわけにはいかないんだよ!」
 イチ様渾身のサーブを亮君は難なく返す。
 再び激しい打ち合いが始まった。
 試合が始まって約2時間、双方共に疲労はピークに達している。
「これで、どうだ!」
 亮君がコートぎりぎりにボールを打ち込んでいく。
「まだだっ!」
 璃奈様は持ち前のプライドからか、ダイビングをしてまでもボールを返した。
 だが、バランスを崩した璃奈様はその場に倒れ、ボールは高く打ちあがる。
「ハニーっ!!」
「私は大丈夫だ!そっちをカバーしろ!!」
 思わぬ事態で、初めてうろたえるイチ様に璃奈様が怒鳴りつけた。
 イチ様が前を向きかまえた時には亮君が高く跳んでいた。
「イチ、アレだ!かまえろ!」
 璃奈様の声に反応し、イチ様があわてて亮君を見やる。
「来い!璃奈が戻るまで俺がつないでみせる!」
「まだまだだね」
 不敵の笑みを浮かべた亮君が、ラケットを振り下ろす------!…かと見えた、が。
 その後ろからさらに高く実沙が現れる。
『なっ?!』
 亮君がすっと避けたところで、実沙が思いっきりスマッシュを打った!!
 パァンッ!と、ボールは快音をたててイチ様の横を綺麗に抜き去った。
「ゲームセット!!ウォンバイコスモス組ペア!7-6!」
 わぁぁぁぁぁぁぁっ!!!と、校内中で歓声が上がった。
「勝っちゃった…」
 聖学幼等部最強のカップルに勝ったことが信じられないのか呆然とする実沙。
「実沙」
「亮君…、私達勝った、の…?」
「そうだよ。俺たちが優勝したんだ」
 実沙と亮君の間に何とも言えないいい感じの雰囲気が流れる。
 その後ろでは、そこに割り込もうとしているつっちーをてるてると直やんが一生懸命押さえていた。
「さぁ、優勝賞品の贈呈やっ!!璃奈様特製のヤマ勘ノートやで〜!」
 直やんが指さした方向には『璃奈様特製ヤマノート』、ではなく、よくわからない、見たことのない生物がいた。
「……………………………………………ゲァァァ〜〜〜」
 ピンクのリボンをした奇妙な生き物は雄叫びを上げ口元に、紙切れが見えた。
「あの!お取り込み中申し訳ありませんが、姫様のペットでイグアナのキャサリンを見ませんでしたか?!」
 いつ復活したのか、何故か執事スーツを身にまとった十一が慌てた様子で走ってきた。
「もしかして、…アレ?」
 ハプニングには慣れっこなのか、この中で一番早く復活した璃奈様が十一に聞いた。
「は?アレとは……ああっ!キャ…キャサリン!?よけいなおやつを食べてはいけないとあれほど口を酸っぱくしていっているのに!!全くあなたは…太ったら姫様から断食の刑に処せられますよ?」
「………グゲェ…」
「それでは皆様、お騒がせいたしました」
 明らかに60kgはあろうかと思われるキャサリン(イグアナ♀・推定5歳)の巨体を軽々と持ち上げ、十一は何でもなかったようにその場を後にした。
 先ほどまでの歓喜が嘘のように屋上は静まりかえっていた。
「私の今までの苦労は何だったのーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
 実沙の心からの叫び声は、西の山へ姿を沈める夕日と共に消え去っていった…。

第四部完

 

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